1. エンゲージメント施策は意味がないと感じられる理由
「施策の質の問題だ」「もっと良いツールを使えば変わる」と考えがちですが、実はより根本的なところに原因があるケースも少なくありません。
ここでは数値と概念の両面から、その構造を整理してみます。
日本のエンゲージメントは、なぜ変わらないのか
ギャラップ社の調査によると、日本のエンゲージメントはわずか6%(世界平均23%)で、139カ国中137位という結果が出ています。しかもこの数値は、2009年の調査開始以来、4〜8%の間でほとんど変動していません。
多くの企業が長年にわたってエンゲージメント向上に取り組んでいるにもかかわらず、なぜ数値は変わらないのでしょうか。
参照:世界の職場の現状:2024年版レポート(ギャラップ社)
測っているものと行っている施策のズレ
ここで理解しておきたいのが、「エンゲージメント」という言葉が指すものの違いです。
本記事では、「エンゲージメント(組織への愛着)」と「ワークエンゲージメント(仕事への熱意)」を区別して扱います。
ギャラップ社が測定しているのは「ワークエンゲージメント」、つまり仕事そのものへの熱意です。
日々の業務に意味を感じているか、自分の役割に主体的に関われているかといった、仕事そのものの体験が問われています。
一方で、日本企業が長年重視してきた施策は「組織エンゲージメント」、すなわち愛社精神や帰属意識を高めるものが中心でした。理念浸透や社内イベント、福利厚生の充実などは、その代表例です。
たとえるなら、「仕事への恋」を測っているのに、施策は「家族愛」を育てようとしている状態です。
どちらも大切ですが、目指している方向がずれていれば、結果がついてこないのは自然なことです。会社への愛着が高まっても、日々の仕事の体験が変わっていなければ、ワークエンゲージメントのスコアは上がりにくいからです。
つまり、エンゲージメントの上げ方や施策が意味ないのではなく、向かっている方向と、測っているものが、最初からずれていたということかもしれません。
2. 「意味ない」を生む、施策の空回りパターン
前章で見たように、エンゲージメント施策が機能しない背景には、「何を測り、何を高めようとしているのか」というズレがあります。
では、このズレは現場ではどの様に現れるのでしょうか。
ここでは、施策が空回りしてしまう代表的なパターンを3つに整理します。
測定で終わり、体験が変わらない
従業員が、組織や仕事にどれだけ積極的に関与しているかを測る調査に、「エンゲージメントサーベイ」があります。しかし、実施後に結果が報告書として共有されるだけで終わってしまうケースは少なくありません。
このサイクルが続くと、従業員の側には「回答しても何も変わらない」という感覚が積み重なっていきます。
数値を把握することと、従業員が「変わった」と感じることは、まったく別の問題です。スコアが上がったとしても、それが日々の働く体験に届いていなければ、施策は形骸化していきます。
さらに深刻なのは、サーベイを繰り返すたびに不信感が蓄積され、次回以降の回答意欲まで下がっていく「サーベイ・ファティーグ」と呼ばれる状態です。
※「サーベイ・ファティーグ」とは「調査疲れ」のことで、頻繁すぎるアンケートや調査によって回答者が疲弊し、回答意欲や質が低下する現象を指します。
施策が「人事の仕事」になっている
エンゲージメントは、人事部門が設計して現場に展開するだけで高まるものではありません。管理職が日々の関わり方の中で、少しずつ育てていくものです。
ギャラップ社の調査では、チームのエンゲージメントのばらつきの約70%はマネージャーの関わり方によって説明できるとされています。
人事が設計した施策が、現場に「制度」として浮いてしまっている組織では、どれだけ精緻なプログラムでも日常の体験には届きにくくなります。
参照:世界の職場の現状:2024年版レポート(ギャラップ社)
「感謝」「承認」が施策に組み込まれていない
ここでいう「関係の質」とは、職場の人間同士が互いの存在や貢献を認め合い、信頼し合えている状態を指します。
制度や環境とは異なり、日常のやりとりの中で育まれる、組織の土台のようなものです。
ウイリス・タワーズワトソン社をはじめ複数の調査機関が、エンゲージメントを支える要素として「理解度(会社の方向性への共感)」「帰属意識(組織への愛着)」「行動意欲(自発的な貢献意欲)」の3つを挙げています。
このうち最も即効性が高く、かつ施策が届きにくいのが、「帰属意識」とされます。
自分がここにいていい、自分の仕事は誰かの役に立っているという感覚です。
この感覚は、制度を整えることでは生まれません。
日常の中で「見てもらえている」「認められている」という体験の積み重ねによって、じわじわと育っていくものです。
研修・福利厚生・制度整備は「環境づくり」として必要ですが、関係の質そのものには直接届きません。
3. エンゲージメントが上がる組織の共通点
施策の量でも、ツールの精度でもない。変化が起きている組織には、日常レベルで共通していることがあります。
データと現場の実態から、その共通点を見ていきましょう。
数値より先に、「体験」が変わっている
エンゲージメントとは、従業員が仕事に対してどれだけ前向きに関わり、「自分の仕事に意味を感じられているか」「誰かの役に立っていると実感できているか」といった状態を示すものです。
こうした状態は、制度やスコアの設計だけで直接変えられるものではありません。人は制度そのものに反応するのではなく、その中でどのように関わり、どのように扱われているかという「日々の体験」によって、感じ方や行動が変わっていきます。
そのため重要なのは、「数値を上げること」ではなく、「数値の背景にある体験」を変える視点です。
日本国内のデータを見ると、エンゲージメントと業績の関係はすでに明らかになっています。リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室が上場企業66社を対象に行った共同研究では、エンゲージメントスコアが1ポイント上昇するごとに営業利益率が0.35%上昇するという相関が確認されています。また、エンゲージメントスコアが高い企業ほど、翌年の売上・純利益の伸びが大きくなる傾向も示されています。
参照
「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果(リンクアンドモチベーション×慶應義塾大学)
日常の中で「感謝」「承認」が流れている
エンゲージメントが高い組織に共通しているのは、感謝や承認が日常の中で自然にやり取りされていることです。
これは感覚論ではなく、日本の学術研究でも裏付けられています。社会心理学の分野では、職場で感謝を伝えたり、受け取ったりすることは、仕事への前向きさを高めるだけでなく、まわりのために自分から動く行動にもつながることがわかっています。
つまり、感謝や承認は「気持ちの問題」だけではなく、エンゲージメントに直接影響する日常的な行動といえるでしょう。
制度の有無ではなく、「自分の仕事が誰かの役に立っている」「見てもらえている」と感じられる体験が積み重なっているかどうかが、エンゲージメントを支える土台になります。
参照
職場において感謝がワークエンゲイジメントと文脈的パフォーマンスに与える効果(日本社会心理学会)
こうした感謝・承認の習慣化を日常の中に組み込む仕組みとして、デジタルサンクスカード「GRATICA(グラティカ)」があります。
感謝を伝え合う体験を組織全体に広げることで、承認文化の醸成を支援するサービスです。エンゲージメントの土台となる「関係の質」から変えていきたい方は、ぜひ一度ご覧ください。
「大きな変革」ではなく「小さな変化」を積み重ねている
厚生労働省「令和元年版
労働経済の分析」では、ワークエンゲージメントのスコアが高い従業員ほど生産性が向上したと実感している傾向が統計的に確認されており、1単位のスコア上昇が労働生産性を1〜2%押し上げる可能性が示されています。
また、英ウォーリック大学の研究では、幸福感(仕事への肯定的な感情)が生産性を約12%押し上げることが示されています。
こうした結果からも分かるように、働く人の意識や行動を変えるのは、大きな制度変更ではなく、日々の小さな体験の積み重ねです。
半年後の評価制度の変更を待たなくても、今日誰かに「あなたのあの行動が助かった」と伝えるだけで、受け取った人の意識が変わり始め、ワークエンゲージメントの改善につながります。
参照
令和元年版
労働経済の分析(厚生労働省)
参照Happiness and Productivity(英ウォーリック大学・原著論文)
4. エンゲージメント施策をやり直す前に確認したい視点
施策を増やす前に、一度立ち止まって問い直すべき視点があります。
測定の目的を「数値改善」から「体験改善」に変える
まずは、サーベイスコアを上げることが目的になっていないでしょうか。
数値はあくまで現状の体温計です。
スコアの先にある「見てもらえている」「役に立っている」と感じられる日常があるかどうか。
そこに問いの中心に置くことで、施策の設計は大きく変わります。
施策を「人事の設計」から「マネージャーの日常」に落とす
エンゲージメントは、制度よりも日々の関わり方の中で変わります。
管理職が日常の中で関わり方を変える方が、制度設計よりも速く現場に届きます。人事の役割は、制度をつくることだけではなく、そのマネージャーを支援することにあります。
「関係の質」に直接届く日常の仕組みを、一つ入れてみる
大きな改革よりも、まずは小さな仕組みから始める。
感謝や承認が日常の中で流れる状態をつくることで、組織の中のやりとりの質は少しずつ変わっていきます。
サーベイのスコアよりも先に、現場の空気が変わり始めるかもしれません。
5. まとめ
エンゲージメントが「意味ない」と感じるとき、多くの場合、施策そのものに問題があるのではなく、向かっている方向と、届けたい体験がズレていることが原因です。
測定・制度・研修は、エンゲージメントを支える環境づくりとして必要です。しかし、それだけでは「関係の質」には届かない。日常の中で、感謝や承認が流れているかどうかが、最終的にエンゲージメントを支える土台になります。
大きな変革は必要ありません。今日、誰かの貢献に気づいて、言葉にして伝える。
その積み重ねが、組織の空気を少しずつ変えていきます。
エンゲージメントの「根っこ」から変えていきたいと考えている方は、日常の感謝や承認のやり取りから始められる「GRATICA」を、ぜひ一度ご覧ください。